奈良学園大学整理解雇事件・勝訴しました。−大学再編・学部閉鎖を口実にした教員の人員整理に歯止めをかける−

弁護士 鎌田幸夫

弁護士 中西 基

1 勝訴判決の日
7月21日、奈良地方裁判所(島岡大雄裁判長)は、奈良学園大学の教授ら7名が解雇・雇止めされた事件について、5名に対する整理解雇が違法・無効であるとして、学校法人奈良学園に対して、労働契約上の地位の確認と未払賃金・賞与等として総額1億2000万円余りを支払うよう命ずる原告勝訴の判決を言い渡しました(定年後再雇用であった2名については残念ながら雇止めを有効としました)。
判決言渡し後、奈良地裁の門前で、弁護団が、スルスルと「勝訴」の垂れ幕を広げました。静かにテレビカメラが回り、取り囲んだ原告、支援者らから大きな拍手がわき起こりました。解雇されて3年4か月。長く苦しかった原告らの闘いが報われた瞬間です。

 

2 奈良学園・整理解雇事件とは
学校法人奈良学園は、1984年に奈良産業大学(2014年奈良学園大学に改称)を開校しました。
法人は、2012年、ビジネス学部・情報学部を現代社会学部に改組するとともに、新たに人間教育学部と保健医療学部を新設する「再編」を計画しました。現代社会学部が設置できなければ、ビジネス学部・情報学部は存続させるとの教授会の付帯決議がなされました。
ところが、法人は、2013年に現代社会学部の設置申請を取り下げながら、この付帯決議を撤回させて、2014年4月以降、ビジネス学部・情報学部の学生募集を停止したのです。そして、両学部の教員には、2017年3月末までに、「転退職」すること(別の大学等に転職するか、退職するか)を迫りました。
これに反対した原告らが私大教連傘下の教職員組合を結成し、その後、奈労連・一般労組にも加入し、団体交渉等で大学教員としての雇用継続を求めました。法人は、これに応じず、「転退職」しなかった教員12名を2017年3月末日付で、解雇・雇止めしました。このうち組合員8名(1名は途中で訴訟取下)が、原告となって裁判を提起しました。

 

3 判決の意義
今回の判決は、全国の私立大学で少子化による経営悪化を口実とした大学再編・学部統廃合が行われている中、大学教員の安易な解雇(雇止め)は許されないと歯止めをかけたものとして意義が大きいものです。
大学は、営利企業ではなく、学問・研究の自由、教育を受ける権利を実践する高等教育・研究機関として、社会の発展に寄与する公的な使命・役割があります。もっぱら経営上の理由による大学再編に名を借りて、教育・研究の中核を担う大学教員を学外に放逐してしまうことは、自らに課せられた公的な使命を放棄するに等しいものです。
今回の判決が守ったものは、原告らの大学教員としての雇用と誇りだけではなく、大学の高等教育・研究機関としての使命・役割でもあったといってよいでしょう。

 

4 判決の評価
今回の判決は、学部再編を理由とする解雇・雇止めにも、整理解雇法理が適用されることを明言し、4要件(①人員削減の必要性、②解雇回避努力を尽くすこと、③解雇者の選定の客観的に合理的な基準を設定し、公正に適用すること、④誠実に協議すること)を厳格に要求しています。
判決は、本件解雇では、このうち3つの要件が満たされていなかったと断じています。とりわけ、判決は、学校法人に対して、大学教員としての雇用を継続する努力を尽くすことを求めています。
判決は、原告らは「教育基本法9条2項の規定に照らしても、基本的に大学教員としての地位の保障を受ける」として、法人が原告らを他学部(新設された人間教育学部・保健医療学部)に異動させることができるかどうかの検討の前提となる文科省による教員審査を受けさせる努力をしていないとしました。この点、法人は、原告らが専門外の学部の教員審査に合格するはずがないとか、系列の小中学校教員や大学事務職への配転の希望を募るなど解雇回避努力をしたと主張しましたが、判決は、このような措置だけでは、大学教員としての雇用確保努力を尽くしたことにならないと判断したのです。
これは、従来の裁判例を一歩進める判断で高く評価できます。

 

5 さいごに
奈良地裁では、勝利しましたが、ほんとうの解決はこれからです。
学校法人奈良学園は、判決を真摯に受け止め、すみやかに原告らを職場復職させ、本件紛争を全面解決して、大学としての公的な使命・役割を果たしてもらいたいと思います。
そのためにも、みなさま方のご支援をよろしくお願いします。